平成16年6月17日
海洋研究開発機構

北米とヨーロッパからのオゾンが日本のオキシダント濃度に影響
-ユーラシア大陸を越える大気汚染物質の大陸間輸送-

概要

独立行政法人海洋研究開発機構(理事長 加藤康宏)の研究プロジェクトである地球フロンティア研究システム大気組成変動予測領域の秋元肇領域長とオリバー・ワイルド研究員は、アメリカやヨーロッパなど東アジアの風上側の大陸で生成されたオゾンが、ユーラシア大陸を越えて長距離輸送され、我が国のオキシダント濃度に影響を及ぼしていることをモデル計算によって明らかにした。
 この成果は、アメリカ地球物理学会誌Journal of Geophysical Researchの6月号(6月16日発行)に掲載された。

背景

一つの大陸内での越境大気汚染の問題は、酸性雨などの例でこれまでも良く知られているが、最近大気汚染物質のヨーロッパからアジアへ、アジアから北米へ、北米からヨーロッパへとわたる大陸間長距離輸送と、その結果としての半球規模汚染が最近問題となっている。光化学スモッグの原因物質であるオキシダント(注1)の主成分であるオゾン(注2)について、中国大陸からの越境汚染が、日本のオキシダント濃度に大きな影響を与えていることは既に知られている。地球フロンティア研究システムではこの問題に加えて北米やヨーロッパなどからの大陸間輸送も含めて解明すべき問題と考え研究を行ってきた。

成果

対流圏における光化学反応過程と輸送過程を合わせて計算することが出来る、全球化学・輸送モデル(FRSGC/UCI注3)を用いた計算結果(スーパーコンピューターSX5(注4)を使用)から(参考1)、ヨーロッパや北米など東アジアの風上側の大陸で生成されたオゾンが、ユーラシア大陸を超えて長距離輸送され、我が国に影響を及ぼしていることが分かった(図1, 2, 3)。ヨーロッパからのオゾン汚染の影響は春(4-5月)に最大で地表付近で2-3ppb、上空で4-5ppb程度である。これに対して北米からのオゾンの輸送量は、ヨーロッパより距離がずっと遠いにも関わらず、冬から春にかけてヨーロッパからの影響と同程度かそれ以上であることが初めて明らかにされた(注5)。ヨーロッパと北米からのオゾンは合わせて、我が国の地表付近のオキシダント濃度を数ppb上昇させ、日本の環境基準値(60ppb)に比べて無視し得ない量であることが分かった。

問い合わせ先

地球フロンティア研究システム 担当:太田
Tel:045-778-5687 Fax:045-778-5497 URL:
http://www.jamstec.go.jp/frsgc/jp/
海洋研究開発機構 総務部普及・広報課 担当:鷲尾、五町
Tel:046-867-9066 Fax: 0468-67-9055 URL:
http://www.jamstec.go.jp/


注1:
光化学オキシダント(OX):光化学スモッグの原因となる大気中の酸性化物質(酸化力の強い物質)の総称。工場や自動車などから排出された窒素酸化物(NOx)と炭化水素(HC)が紫外線により化学反応を起こし、オゾンを主成分(90%以上)とし、パーオキシアセルナイトレート(PAN)、過酸化水素などを含む酸化性物質が形成される。光化学オキシダントが高濃度になると、光化学スモッグが発生し、健康被害が起きたり、植物が枯れたりする影響が出る。

注2:
オゾン:ここで言うオゾンは、対流圏(地表)のオゾンを指す。対流圏では、自動車や工場等から排出される二酸化窒素(NO2)が、太陽光により酸素原子と酸素分子に分解され、オゾンが形成される。光化学スモッグの主な原因で、生物にとっても有害な大気汚染物質。IPCC第3次報告書では二酸化炭素、メタンに次ぐ第3の最も重要な温室効果ガスであるとされている。一方成層圏では、太陽からの強い紫外線が存在し、大気中の酸素(O2)を分解し,できた酸素原子(O)と酸素分子(O2)からオゾン(O3)が形成される。同時に、オゾンは光を吸収して分解し,酸素原子と酸素分子に戻る反応が起こり、この際、地球の生物に対して有害な紫外線を吸収する。

注3:
全球化学・輸送モデル(FRSGC/UCI): カリフォルニア大学アーバイン校が開発した気候モデルに光化学反応を組み込んだ全球3次元化学輸送モデルを地球フロンティア研究システムが改良したもの。大気中輸送・化学反応、降水除去などを計算し、オゾンや硫酸エアロゾルなどの生成・分布を全球的にシミュレートできる。

注4:
地球フロンティア研究システムが保有する最先端の超高速・高集積のCMOSテクノロジを採用し、共有メモリと分散メモリアーキテクチャを融合した超高速スーパーコンピュータ。科学技術計算分野で幅広く利用可能であるため、全地球規模におけるさまざまなプロセス研究などに使用されている。また豊富なRAS機能により、迅速な故障診断と容易な予防保守を実現し、システムの信頼性・稼働性・保守性を総合的に高めている。
RAS:Reliability, Availability, Serviceability(信頼性・稼働性・保守性)
CMOS:Complementary Metal Oxide Semiconductor(相補性金属酸化膜半導体)
低消費電力を特長とした半導体回路

注5:
その理由はヨーロッパからのオゾンが比較的地表付近で輸送されるため、地表面で壊される量が多いのに対し、北米からのオゾンは大西洋上で上空へ運ばれ、偏西風に乗って我が国まで効率よく運ばれるためである。